防衛装備庁の随意契約 ── 実際の公表理由を読む
防衛装備庁(ATLA)が「契約に係る情報の公表(中央調達分)」で毎月公開している、随意契約(競争入札によらない契約)の実際の理由文を、根拠法令ごとに整理したものです。すべて公表データそのものの引用・翻訳であり、Hashike独自の分析や助言は含みません。
公式情報源への確認日: 2026-09-21
これは指南ではなく、公式情報の翻訳・整理です
本ガイドは、政府・公的機関が公開している一次情報を翻訳し、構成を整理したものです。ハシケ独自の見解や助言は含みません。案件ごとの該当可否は、必ず当該の入札公告および所管機関の公式情報でご確認ください。
法的な枠組み:会計法第29条の3
会計法第29条の3第1項は原則を定めています:「契約担当官及び支出負担行為担当官(中略)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。」
第29条の3には、競争入札の例外が2種類、別々の理由で定められています。この2つを混同しないことが、以下の実例を正しく読む鍵になります。
第4項(「性質・目的」による随意契約):「契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。」
第5項(少額随意契約):「契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合においては、第一項及び第三項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、指名競争に付し又は随意契約によることができる。」
つまり「随意契約」という一つの言葉の裏には、まったく別の2つの状況がありえます。第4項は「この会社にしか履行できない」という理由、第5項は「金額が小さいので競争入札の手続きを要しない」という理由です。Hashikeが実際に集計した令和6〜8年度のATLA公表データでは、随意契約・特定取組契約のうち根拠法令に「第29条の3第4項」を挙げるものが最多、次いで「第29条の3第5項、予決令第99条の2」(少額)でした。以下のパターン①〜③は、いずれも第4項(性質・目的による例外)の実例です。
パターン①:防衛生産基盤強化法に基づく事業承継等特定取組
2023年施行の防衛生産基盤強化法に基づき、防衛大臣が個別に「装備品安定製造等確保計画」を認定した企業は、当該装備品等について法令上ただ一社に定められた契約相手方となります。ATLAはこれを「特定取組契約」として毎月公表しています。実例(すべて公表データより引用・要約):
特定取組契約の公表理由文はいずれもほぼ同一の定型文です:「本件の契約を履行できる事業者は、防衛生産基盤強化法に基づき、防衛大臣から装備品安定製造等確保計画の認定を受けた[社名]のみであり、法令の規定により、契約の相手方が一に定められているため。(根拠法令:会計法第29条の3第4項)」
- 株式会社三洋製機(石川県加賀市) ── 「事業承継等に係る特定取組」、契約金額279,080,562円(令和7年3月)
- 株式会社ネツレンハイメック(東京都品川区) ── 同上、契約金額104,299,701円(令和6年10月)
- 株式会社中金(京都府久世郡久御山町) ── 同上、契約金額101,538,800円(令和6年3月)
- 有人宇宙システム株式会社(東京都千代田区) ── 「サイバーセキュリティ強化に係る特定取組」、契約金額7,340,080円(令和7年1月)
パターン②:業態調査により唯一の技術・許可保有者と確認された場合
大型の装備品調達では、ATLAが「業態調査」(市場に能力を持つ事業者が他にいるかどうかの確認)を行い、あわせて新規参入者を募る公示を行った上で、応募がなかったことを記録した上で随意契約に至るケースが多く見られます。多くは武器等製造法・火薬類取締法上の許可の保有が条件になっています。実例(すべて公表データより引用):
実例(金額の大きい順):
- 三菱重工業株式会社 ── 「極超音速誘導弾等の生産準備役務(その2)」、契約金額239,038,800,000円(令和7年4月)。理由:「誘導弾システムの設計、製造の実績を持ち、(中略)業態調査の実施時点において、上記の技術及び実施体制を確立できるのは三菱重工業(株)のみであった。また、公募を行ったところ、応募者は三菱重工業(株)1者のみ」
- 三菱重工業株式会社 ── 「イージス・システム搭載艦1番艦の製造(その3)」、契約金額139,700,000,000円(令和6年8月)。理由:「業態調査の結果、能力を有するのは三菱重工業(株)のみであり、新規参入を募る公示を常続的に行っているところ、当該公示に応募する者は確認されなかった」
- ジャパンマリンユナイテッド株式会社 ── 「イージス・システム搭載艦2番艦の製造(その2)」、契約金額132,403,700,000円(令和6年9月)。理由は上記と同型(同社1者のみ能力保有)。
- 三菱電機株式会社 ── 「03式中距離地対空誘導弾(改善型)」、契約金額64,983,600,000円(令和7年4月)。理由:「当該製造に必要な技術及び設備を有し、かつ、武器等製造法に基づく製造の許可及び火薬類取締法に基づく販売の許可を受けているのは三菱電機(株)のみ」
- 三菱重工業株式会社 ── 「地対空誘導弾ペトリオット再保証弾」、契約金額75,406,854,600円(令和7年1月)。理由:「米国政府が認めた米国レイセオン社との技術援助契約を締結していること(中略)が必要であり、現在、これらの要件を満たしているのは、三菱重工業(株)のみ」
パターン③:日米相互防衛援助(MDA)協定に基づく政府間調達
この最後のパターンは、そもそも「日本企業の中で唯一」という話ではありません。契約の相手方自体が米国政府(米空軍省など)であり、日米相互防衛援助(MDA)協定という国家間の枠組みに基づく調達です。実例:
理由文はいずれも同一:「本契約は、日米相互防衛援助協定に基づく調達であるため。(根拠法令:日米相互防衛援助(MDA)協定)」
- 米空軍省 ── 「F-35A/B戦闘機」、契約金額266,756,251,358円(令和6年11月)
- 米空軍省 ── 「KC-46A」(空中給油機)、契約金額222,441,364,350円(令和7年7月)
- 米空軍省 ── 「F-35 ALGSの態勢整備」、契約金額86,227,160,400円(令和8年2月)
この情報が示さないこと
これらは公表された理由文の引用・要約であり、Hashikeによる評価や解釈を加えていません。以下の点にご注意ください:随意契約が認められたことは、その企業が当該分野で唯一の能力を持つ企業として将来も選ばれ続けることを意味しません。特定取組契約の認定基準・申請方法は防衛生産基盤強化法及び関連省令に定められており、本ガイドはその手続きを解説するものではありません。業態調査や公募の具体的な実施方法・基準は、個々の調達ごとにATLAが定めるものであり、本ガイドが記載する例はあくまで公表された結果の引用です。ご自身の状況への当てはめが必要な場合は、ATLA及び関連法令の一次情報をご確認ください。
出典一覧
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